桜の咲くころ
「そう言えば、昨日、正面玄関で待ってたの、彼氏?」

笑いジワをさらに深くしてあたしを見つめる。

笑う、というか、ニヤつくといった方が正確か。

「・・・見てたんですか?」

さすがCIA。

もう、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなってしまった。

「寒いのに、中で待ってれば良かったのにねー」

楽しそうにからかうような口調で続けた。

「あの子。僕、多分知ってるなー」

意外な一言に、あたしは驚いて隣を見た。

「知り合いなんですか!?」

医者に知り合いがいるなんて話は聞いたことない。

「うん、僕がまだまだヒヨッ子の研修医の頃かな」

トクン・・・

小さく、胸が鳴った。

「タレ目で可愛い男の子が入院しててさぁー。受け持ちじゃなかったんだけど、年寄りばっか相手にするのも嫌で、よく顔出してたんだよね。結局、ウチじゃ手に負えないって事で転院させたんだけど」

頭の中に、若い研修医の姿が浮かぶ。

あの日、あの時あたしが病室を訪ねた研修医は・・・前田先生だった?

「中学生のガキのクセに、毎日可愛らしい彼女がお見舞いに来てて。あぁ、顔がいいと得だなーって思ったら、苛めたくなって。よく、絶食の彼の前で飯の話をしてやったなぁ」

懐かしそうに次から次に溢れてくる先生の思い出話。

何だか、恥ずかしいような心がくすぐったくなる感じで聞いていた。

「苛めるって・・・先生らしいですね」

煙を静かに吐き出して、口の端を意地悪そうに持ち上げて笑うと、先生も負けずにニヤリと笑い返す。

「その可愛らしい女の子が、こんなにも子憎たらしくなるなんてねー。僕も目が曇ってきたかな」

「・・・・・・!!」

あたしの事も覚えてたんですか!?

そう、驚いて叫んだ。
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