桜の咲くころ
いつの間にか、頬は涙で濡れていた。
…泣いてたんだ。
あたしは、自分が泣いていた事をぬぐった手の平で実感すると、ゆっくり立ち上がりバスルームへ向かう。
きっとメイクはボロボロだ。
あたしは服を雑に脱ぎ捨てると、目を閉じて強めに出したシャワーを顔にあてた。
ピーンポーン
品の良い機械音が部屋に響く。
シャワーで濡れた髪をタオルで拭きながらインターフォンを手に取った。
「俺―。開けて」
あたしは無言のまま指先でボタンを押し、エントランスのオートロックを解除する。
耳に当てた受話器越しに「開いたー」という声を確認すると、あたしは玄関の鍵を開けに向かった。
放心状態でも玄関の鍵はかけてたんだ…。
ドアチェーンまでしっかりかけてあるのを見て、自分の行動を感心していると、ガチャ、とドアノブが勢いよく下がってサトルが顔を覗かせた。