桜の咲くころ
「じゃ、行きましょうか」
ナナちゃんが指揮を取る。
クルリと正面玄関に向き直って、「こちらでーす」と歩き出した。
「こんばんわ・・・・・・どうかされましたか?」
先頭をきって歩き出したナナちゃんの足が、入り口で止まった。
一番後ろからはよく見えないけど、誰か入って来たのかな。
時間外の患者かな、と、その様子を背の高い外科の研修医の後ろから見守った。
「・・・ちょっと、用事があって」
「・・・面会時間は終わってるんですけど?」
「いや、患者さんじゃなくて」
「・・・?診察ですか?」
「まぁ、そんな所です」
あたしの視界の先でナナちゃんと会話を交わしてるのは・・・。
やつれきったサトルの姿。
背筋に冷たい何かが伝う。
大丈夫、みんないるから。
人がいるから、サトルは何もしてこない。
億劫に思っていた食事会も、この時ばかりは天の助けだと思った。