桜の咲くころ
前に立つ研修医の背中を押して「さ、行こうか。お腹減ったね」と笑いかける。

初めは驚いて見てた彼も、そうですね、と足を動かした。

皆、どこかぎこちなく。

皆、歯切れの悪い何かを肌で感じていた。



エントランスの大きな自動ドアが開き、冷たい風がホールに吹き込む。

落ち葉たちが、温かさを求めて風と共に入り込んでくる。

「ミ・・・カコ?」

後ろであたしを呼ぶ声。

振り返っちゃいけない。

ここで振り向いたら、きっと彼をダメにしてしまう。

強い意志を持って、サトルと決別する事を決めていた。

「ミカコっ!!」

叫ばれる声。

耳を塞ぎたくなる。

足を止めたあたしに、ゆっくりと後ろから近付いてくる擦った足音。

「俺が、愛してるのは、やっぱりキミしかいないよ・・・」

悲しげな声と共に、背中に熱い熱を感じた――。
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