桜の咲くころ


「あ、来てましたか」

細い手を握ったまま、俺は顔を声の方へ向ける。

丸々と大きな体を揺らした医師が、静かに中へ入ってくる。

「もう、3週間ですね・・・」

溜め息を漏らすように、その医師は続けた。
 
「犯人、起訴されました。さっき、警察の方が来て言ってました」

「・・・そうですか」

「・・・ストーカー事件って事で、世間的には処理されてます。病院内での事件でしたが、患者さんたちの動揺もなく、仕事の復帰も問題なさそうですよ」

「・・・そうですか」



あの事件の日――。

朝から嫌な予感がしたんだ。

根拠なんてないけど、妙に確信めいた何かがあって。

仕込みで早めに出勤しようと思ったんだけど、知らず知らずの内に足が病院に向かってて。

前に迎えに行った時と変わらない雰囲気だったんだけどさ。

正面玄関の大きな自動ドアの先に映った景色は、慌しく白衣を着た医師や看護婦が血まみれで何かをしていて。

その先には、男2人が、赤い何かを持った男を押さえてて。

あ、こいつ、あの男だって思って。
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