桜の咲くころ
「所詮、そんなものよね、子供の約束なんて」

乱れたベットの上で、アタシはポツリと呟く。

隣で煙草をくゆらせているサトルが「何か言った?」とアタシを見下ろした。

「別に。それより、仕事いいの?」

「あ、そろそろ行かなきゃだな。ミカコは?」

「アタシは今日非番だから」

「いいな。医者ってそんなに暇なのかよ」

不貞腐れた表情でアタシを見下ろしたまま、サトルはベットの下に落ちたシャツに袖を通した。

サトルは保険会社に勤める営業マンだ。

客の所に訪問するフリをして、度々アタシを抱きに部屋に訪れる。

彼氏…といえばそうなるのかも知れない。

でも、アタシは彼氏だと思ったことは一度もない。

それは今まで体を重ねた男にだって、一度も思いもしなかった。

だって、アタシは未だに片思いをしたままだから……。

いっその事、会って話すなりセックスするなりして思いを整理できればと思う。

でも、それは無理。

なぜって?

アイツの居場所を知らないんだからしょうがないじゃない?
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