桜の咲くころ

「淋しかったんだもん…」

サトルの腰に回した腕に力をこめて呟く。

顔が見えなくて良かった。

きっと目があったら、嘘くさい自分の台詞に吹き出してただろう。

サトルを思って流したんじゃないから。

だって、あたし、さっき失恋したばっかなんだよ。

チャイムが鳴るまで、サトルの事なんて頭の片隅にもなかった。

そんなズルイ女なんだけど…。

あたしがそんな事思ってるなんて、きっと気付かないだろうね。

「何か、ミカコらしくないね」

そう言いながら、サトルは力いっぱいあたしを抱きしめて、そして子供をあやす様にポンポンと優しく背中を叩いた。

…彼氏じゃなくていい。

今、このポッカリ開いた心の寂しさを埋めてくれる男なら……一瞬でもアイツの事を忘れさせてくれる事のできる男なら…誰でもいいと思っていた。

一体あたしは何がしたいんだろう。

どうしたいんだろう。

あたしは、目の前の現実から逃げるのに必死にもがいていた――。

あたしを救ってくれる人は誰ですか?

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