桜の咲くころ
太っちょの医者が開けた窓から、風が吹き込む。

その風に運ばれるように、一片の花びらが舞い落ちてきた。


「・・・桜」


この蕾だらけの、一体どこに咲いた花があったというのか。

窓から外を見下ろす。

どこにも、咲いてる桜は見当たらない。

手の平に包んだ薄いピンクの花びら。

どこか、部屋においたままのミカコのマグカップに似ている。

俺は、それを破かないように、愛おしさを込めてそっと指先で触れる。


「・・・・・・シン」



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