桜の咲くころ
「今日は飲みたいからタクシー拾うよ?」

サトルの車を目の前にして、当然車で移動するものと思っていたあたしは拍子抜けた声で「へっ?」と呟く。

「腹減ってるし、近場でいいだろ?」

半ば強制的にタクシーに押し込められ、サトルが告げた店に向かって車はゆっくりと走り出した。





店へ向かう途中、サトルは一人ベラベラと喋っていた。

それをあたしは「へー」「そうなんだ」という二言だけを駆使して受け流していく。

何も考えたくないはずなのに、窓の外に流れる街灯を見つめているとシンの顔が目の前に浮かんできて。

だいたい、あたしはシンのどこが好きだったんだ?なんて事まで考え始めてしまった。

中学の頃の写真をリカに見せた時、「ふーん…優しそうな人じゃん」と微妙な反応をされた。

確かに、テレビや雑誌、漫画や小説に出てくるような風貌には近からず遠いとあたしも思う。

身長だってあたしより少し高い位だし、目はクリクリしてなくて細いタレ目だし。

それは15年ぶりに再会しても変わらなかった。

変わったといえば、病院にいた頃より血色が良くなったことと、声が低くなってた事…くらいかな。

長年片思いをするには、イマイチ材料に欠ける気もする。


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