桜の咲くころ
でもあたしはシンの事が忘れられずにいて――。

人の気持ちって、ホント、理解不能だわ。

「運転手さん、煙草吸ってもいい?」

頭の中のモヤモヤを消し去ろうと、バックからメンソールの煙草を取り出した。

ルームミラー越しに上目遣いで微笑んでみたんだけど、「禁煙なんで」という冷たい一言に見事に打ち砕かれてしまう。

あたしは不貞腐れた表情でバックに煙草を投げ込むと、プイっと窓の外に再び視線を戻した。


マイナス方向にゆっくりと動き始めた一日は、さらに坂を転がるように私の心を抉る事になるなんて。

この時の私は、知るはずもなかった……。
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