桜の咲くころ
鍵
――それからのあたしは、学会での出張やら当直連勤やら、毎日忙しい。
わざとそうしていたのかも知れない。
なるべく、シンの事を思い出さないよう、仕事に没頭していた。
サトルも仕事が忙しいらしく、時間が合わないとの理由であたしの部屋に来る回数も減っていた。
病院からの帰り道…。
今までは携帯を見ながら歩いてたのに、最近じゃキョロキョロして挙動不審。
公園の中、街路樹の向こう側、ひょっとしたら会えるんじゃないかって目が勝手に探してしまう。
今まで何年も会わなかったのに、すぐ再会するなんて確立的に有り得ないんじゃない?
どうしてしまったんだ…あたしらしくない。
相手には到底かないっこないカワイイ女がいるじゃない。
略奪なんて面倒臭い。
あたしには【サトル】という男がいて、あいつには【モモカ】という女がいる。
それでいいじゃない。
はい、片思いの思い出は忘れましょう。
心の中で、もう一人のあたしが微笑みかける。
……それもそうね。
あたしは、大きく深呼吸をして、真っ直ぐ前だけを見つめマンションへ向かって歩き始めた。