桜の咲くころ
途中、サトルからメールが入る。

『ゴメン、接待で鹿児島まで行くから今回も会えそうにない』

はいはい、どうぞ。

週末、当直開けて連休が取れても一人ぼっち。

指先で携帯を閉じる。

半分に折れ曲がったそれは、パチン…と乾いた音を立ててカバンへと投げ込まれていった。

保険の営業も大変ね。

週末は、ほとんど接待とか仕事とか研修とかで時間が取れない。

大体、接待って何なのよ?

保険って接待してもらって入るもの?

何だかんだ言って、あたしの方が休んでる日数は多い気がする。

とりあえず…寝よう。

昨日は深夜の急患が30人も来て仮眠もあまり出来なかったし。

足取りを速め、家へと急いだ。

あ・・・、鍵、出しておこ。

業界向けの雑誌やらデリバリーのチラシやらが押し込まれた汚いカバンに手を入れて、指先に神経を集中させる。

右へ左と動かすものの、求める物は指に触れない。

ヤバイ・・・なくした?

マンションの入り口まで来たというのに……。

もぉ…。

一気に徹夜勤務の疲れが体に押し寄せてきて、あたしはその場に力なくしゃがみ込んでしまった。
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