桜の咲くころ
「あ・・・あった・・・」

キーホルダーもケースも何もついてないむき出しの鍵。

薄っぺらのそれは、過密したカバンでは探し難い事を物語っていた。

「・・・でかい鈴か何かつけとけよ」

シンは指先でそれを拾い上げると、あたしの目の前にかざして言う。

「物がなくなったら、カバンだろうが鍋だろうが引っ繰り返す。それ基本だから」

「・・・うん」

「・・・大丈夫か?」

「・・・ううん」

「・・・目の前だから帰れるだろ?」

「・・・うん」

「・・・じゃ、俺、行くよ?」

「・・・・・・」

あたしは答えなかった。

待ち望んでた再会が、終わる。

ちゃんと話もしてないのに。

ちゃんと顔も見てないのに。

そんなの嫌だよ・・・。

大丈夫、夢だもん。

少しぐらい、わがまま言っても・・・いいでしょ?
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