桜の咲くころ

コーヒー

こんなに早く再会すると、誰が想像出来ただろう?

会いたい、会いたいと浮かんでは急いでかき消す毎日を送っていたあたしには、本当に夢としか思えなかった。

飾り気のない鍵にしておいて良かった…。

玄関の鍵穴にキーを差し込みながら思う。

もし、シンの言うとおり大きな飾りでも付けていたら、会う事もなくあたしは部屋に戻って来ていただろう。

そしてまた、ベットに倒れこんで「今日も会えなかった」と溜め息を吐く。

いやいや、彼女がいるんだから。

友達でいい。

もっと・・・話が・・・声が聞きたい。

「ありがとう」

わざとらしく引きずった足をさすりながら、あたしは目の前に立つシンを見上げた。

さっきの驚きをまだ受け入れていない様で、シンはまだ目をパチパチさせている。

「お礼に、コーヒー入れるけど?」

って言ってもインスタントしかないよ、と片手で玄関のドアを開きながら誘う。

それに対して、シンは「いや、いいよ・・・」と遠慮するように手を振った。

「疲れてるだろうし、悪いし」

シンなりの優しさか。

偶然再会した友達の彼氏に気を使ってなのか、自分の彼女に気を使ってなのか。

誰に対しての『悪いし』なのか。

それはきっと・・・あたしに対して向けられたものではないよね?


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