桜の咲くころ
「・・・そっか。じゃ、ここで」

あたしは笑顔で言う。

でも――笑顔の裏では、奥の方から内臓を鷲掴みされてるくらい苦しかった。

また、消化不良のまま・・・。

残念な気持ちと寂しい気持ちが入り混じって、鼻の奥がツンと痛くなる。

やばい。

泣きそう。

あたしは唇をかみ締めると、もう一度笑顔を作って「ありがとう、じゃバイバイ」と手を振ってドアを閉めた。

バ・・・タン。

ゆっくりと閉じられた扉の音。

シンは何も言わなかった。

ただ、目を伏せて頷いていただけ。

軽い女と思ったのかな・・・。

音のなくなった玄関にしゃがみ込み、あたしは膝に顔を埋める。

何でうまくいかないんだろう。

手を伸ばせば触れられる位置にあるのに、どう触れていいのか分からない。

触れたら粉々に砕けてしまいそうで・・・あたしは怖かった。

ずっと心の奥にしまってた気持ちが、ザワザワと音を出して動き出す。

あたしは、付き合ったりセックスしたりしなくていいの――。

ただ・・・ただ抱きしめて欲しいだけ。

不安に押しつぶされそうになりながらも、シンの無事を祈って待ってた。

もう、安心していいよ。

俺は生きてるよって、抱きしめて頭を撫でて欲しかっただけ。

だけ――。

でも、それは適わない。

時が立ち過ぎてたのかな。

あたし達は、会わない間に――いや、そもそも初めっから心なんて通じ合ってなかったのかな。


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