桜の咲くころ
「ご、ゴメン。俺」

頭を抱えてしゃがみ込んだあたしの上から声が降って来る。

恐る恐る、腕の間から見上げると、そこにはシンが決まりの悪そうな顔をして立っていた。

「な・・・なんで?」

今の状況が全く呑み込めないあたしは、だらしなく両腕を下ろして呆然と見上げるしか出来ない。

「・・・やっぱ、コーヒー飲みたくなって」

シンはイタズラっ子の様に舌を出して笑った。

「なに、それぇ・・・すっごくビックリしたじゃない!!」

腰が抜けたまま、目の前にある履き込んだジーンズを両手でバシバシと叩いた。






インスタントの粉が入ったカップにお湯を注ぐと、真っ白な湯気と共に、おいしそうなコーヒーの香りが漂ってくる。

「はい、どうぞ」

「どうも」

あたしのお気に入りのソファーを陣取ったシンが右手を差し出してカップを受け取る。

昔は缶ジュースだったっけ・・・。

手渡した光景に昔を重ねながら懐かしい気持ちになる。

あたしたちは、会わない間に甘ったるいジュースからブラックのコーヒーが飲める位大人になっていた。

シンは、さほど緊張した様子もなく、唇を尖らせながらカップの中にフーフーゥと息を吹きかけている。

あたしは、シンの隣に腰を下ろし、その横顔を笑みを浮かべながら見つめた。

「まさかお医者さんになってたとはなぁー。想像付かなかった」

突然、シンが口を開く。

でも、視線はカップの中のコーヒーに向けられたままだ。


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