桜の咲くころ
「シンは、今何やってるの?」

道で声をかけられた時の『仕事帰り』というセリフを思い出し、尋ねてみる。

あたしの何気ない問いかけに、シンは視線をあたしに向けると「ヒミツ」と言って笑った。

細い目が、笑うとさらに細くなって優しいアーチを作る。

「ヒミツって何よ!気になるじゃない!!」

「医者とは到底かけ離れた仕事だよ」

「それじゃ、分かんないよ」

「分からなくていいよ」

「久しぶりに話したのに、意地悪だねー」

「そう?」

「うん、性格曲がった」

「曲がっても、いずれかは円になって丸くなりますから」

口先だけの喧嘩。

でも、そんな些細な事も、今のあたしは幸せだった。

「彼氏、一緒に住んでないんだ?」

「へ?」

あまりにも突然変わる話に、あたしは付いていけず、驚きで目を丸くしてしまう。

「なんか、男っ気ない感じの雰囲気だよな、この部屋」

そりゃそうよ。

一緒に住んでないし。

フラッと来ても泊まる事はまずないし。

第一、彼氏じゃ・・・ないし。




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