桜の咲くころ
すごく欲しかったものが、今、この腕の中にある。

彼とあたしを繋ぐ11桁の数字。

何年も、シンの消息を気にしていた。

元気なのかな・・・

今、何をしてるのかな・・・

会いたくても会えない毎日。

それを振り払うように生きてきた。

でも――やっと会えたから。

それで満足しなきゃいけないのに、昔と変わらない笑顔で書き残していった番号から目が離せない。

大切な、宝物を見つめるみたい。

そのキラキラ光る数字を、シンが部屋から去った後、間違えないように携帯に入力していく。

しばらく、その登録画面を見つめて我に返った。

――彼女いるから。

それは、紛れもない事実で。

あたしなんかより、数倍、いや数十倍もシンに似合ってる。

今のあたしじゃ、ご飯どころかインスタントコーヒーを入れるだけで精一杯だもん。

微笑んだ表情が、一気に崩れる。

あたしは、これからどうするんだろう?

シンと再会して―どうしたいの?

疲れきった頭の中で、いつかリカが言った言葉がグルグルと弧を描いて回っていた。


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