桜の咲くころ
第2章
アイロンがしっかりかかった白衣に袖を通す。
シンとの再会を願って頑張ってた仕事。
再会できたから、と辞めるはずもなく、あたしは顔写真のついたネームプレートを胸のポケットにぶら下げると、一つ息をついてロッカーを閉めた。
「田中さん、先に血圧計らせて下さいね」
「今日は高いと思うよ」
どうして?と、あたしは患者の細い腕にバンドを巻きながら首を傾げる。
あたしの顔が不安げに見えたのだろうか。
患者は笑いながら顔を赤くして言った。
「だって、ミカコ先生に診て貰ったら誰でもドキドキして血圧上がるよ。逆に前田先生なら下がっていいかも知れないけど」
「あら、そう言っていただくのは嬉しいけど、前田先生には申し訳ないですね」
「いや、前田先生も最近はオヤジ太りしてるしさぁ。だから、メタボなんちゃらに気を付けなって言ってやったばかりなんだよ」
「あのオナカ、意外と癒されるって評判ですよ。クマの縫いぐるみみたいでしょ?今度、背中にチャックないか探してみますね」
あたしの言った冗談に、横に付いてる看護師が吹き出した。
「先生、笑わせたら血圧計れませんよ!!」
注意しながらも、一番笑ってるのは看護師で。
患者も一緒に笑う。
腕なんてブレてしまってバンドがずり下がってきてる始末。
あたしの診察はいつもこんな感じ。
他愛もない話をして笑ってばかり。
隣の部屋で診察してる前田先生が乱入してくる事もしばしばだ。