桜の咲くころ
「ミカコ先生はこんなに美人で面白いのに、何で独り身なんだろなぁ。もったいねーなぁ」

「本当ですよね。でもね、田中さん。先生は、うちのイケメン揃いの外科のドクター達でさえ手が出せない高嶺の花なんですよ」

「俺が40ばかり若けりゃなぁ~」

患者は、腕を前で組みながら眉間にシワを寄せて唸っている。

「田中さんには、キレイで素敵な奥様がいるじゃないですか!そんな事言ってたら奥様に叱られちゃいますよぉ」

二人の会話に口を挟みながら、心の隅がチクリと痛むのを感じた。


――キレイで可愛い彼女がいるじゃないですか。

いや、友達だから関係ないし。

自分で刺した心の傷を広げないよう言い訳して身を守る。

「じゃ、今後も薬続けましょう。前と同じもの出しておきますから」

あたしは患者の膝をポンポンと叩いて、診察が終わったことを伝えると、彼は名残惜しそうにあたしを見て「じゃ、先生、来月な~」と部屋から出て行った。

田中さんの背に手を添えて見送ってた看護師が、戻ってくるなり、しゃがんであたしの顔を覗き込む。

「な、何!?」

驚いて目をパチパチさせてると、彼女は探るような目で「本当のところ、どうなんですか?」と詰め寄ってきた。

本当のところ?

あぁ・・・男関係ね。

「そんな事、どうだっていいじゃない」

笑いながらカルテにペンを走らせる。

「先生に片思いしてるスタッフ、たくさんいるんですよ!」

その言葉と同時に、目の前がグルリと回転する。

あたしは、背もたれに体を預けた状態のまま、勢いよく彼女の正面に向きなおされてしまった。


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