桜の咲くころ
この人は・・・40歳にもなって面白いというか子供っぽいというか・・・。

患者が心を開いて会話するのも、この先生ならでわの魅了なの・・・かしら。

先生のハッチャケた行動の尻拭いをしながらも、医局のメンバーだけでなく、他のスタッフも信頼を寄せている。


あたしがそんな事を考えてると知ってか知らずか、本人は「メイド喫茶で修行しなくちゃだなぁ」などとブツブツ呟いて知らん顔だ。

「そういえば――」

口元に挟んだ煙草に火を付けながら、前田先生がポツリと言葉を吐き出す。

「今日付いてた若い看護師だけど、レントゲン室の技師とデキてるよ」

「・・・先生、聞いてたんですか」

あたしが目を丸くして隣でおいしそうに煙を燻らせる先生を見ると「だって、筒抜けだもん」と、目だけをあたしに向けてニヤリと笑う。

確かに。

診察室の入り口は、それぞれに扉があって独立してる様に見えるけど、部屋の奥はスタッフが動き回る為に繋がっている構造。

ある程度の音量の会話や笑い声なら、聞き耳を立てなくても聞こえてくる。

前田先生が、診察中の談笑に隣の診察室から裏を通って乱入してきた例を考えれば、今日の会話だって聞こえてても不思議じゃない。

「付き合ってる男が、美人女医の話しばっかり聞きたがるからイラついてんだろ。気にするな」

「先生って・・・何でも知ってるんですね。CIAみたい」

まだ温もりが充分すぎる程残るコーヒーを胃に流し込みながら横顔を見上げる。

あれ?

今の会話。

もしかしてフォローされたのかな。
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