桜の咲くころ
「週末も出来るだけ当直はずしてやるから」

「え?いいですよ、本当に暇ですし」

「いやいや、俺らのせいで嫁に行き遅れたなんて言われたら困るし」

「言いませんってば」

「いや、言うね。そして「責任取ってください」とか叫んで若いピチピチのドクターに言い寄るんだ」

俺はメタボ親父だから無視されて金だけ取られる運命だな、絶対。と、小声で付け加え、拗ねた子供のような顔をしてワザとらしく顔を覆う。

あたしは、その百面相をしばらくポカーンと見つめ、顔を覆った指の隙間からチラチラ様子を伺う目を見つけて大笑いした。

「あはは!先生、面白すぎです!!」

「本気だもん」

「いや、本当に当直の並びは今まで通りクジ引きでいいです。用事がある時は言いますから」

先生なりに気を使ってくれたんだろう。

そんな、些細な心遣いが嬉しかった。

あたしは笑いすぎて涙目になった目を指でなぞりながら、灰皿に煙草を押し付けて火を消した。

「今日、当直だろ?」

立ち上がろうと、お尻を浮かせたあたしに先生が声をかける。

「へ?あ、はい」

「変わってやる」

「え、いいですよ」

ブンブンとオーバー気味に左右に手を振るものの、目の前のメタボ親父は首を振って見向きもしない。

「お願い、変わって」

首の動きを止めた親父が、真面目な顔で言う。

「・・・?」

「嫁と喧嘩して、今日は帰れないなんだ」


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