桜の咲くころ
そのマグカップに寄り添うように置かれたもう一つのカップ。

それは、対照的に澄んだブルーが浮き出ていた。

甲乙付けがたい、そんな美しさ。

「この二つ、どちらも素敵ですね」

「ありがとうございます」

その女性は、嬉しそうに声を弾ませて「これね、」と言葉を続ける。

「このカップ、別々の店で買ったものなんです。違う店に、同じ作家の作品が1点ずつ置かれててね。まるで離れ離れになった恋人同士みたいに思えて、私、思わず買い取ってしまいました」

「・・・あなたも一つ、持ってるんですよね?」

「私?私のは、同じ作家の作品でも少し大きくて色ももっと強く出てるものなんです」

なぜか、このカップには物語がある気がしてね、と優しく一つを手に取る。

「だから、このカップは、大切にしていただけるお客様にセットで買っていただきたいんです」

慈しむような、優しい言葉。

全然嫌味がなくて、逆に聞いていて気持ちの温まる言葉だった。

「私に――買わせていただけませんか?」

彼女が手に包んだカップを見つめて言う。

その言葉に、さほど驚いた様子もなく彼女は顔を上げ「気に入っていただけたんですか?」とあたしに問いかける。

「――あたしと似てる気がしました」

離れ離れになった、このマグカップを自分とシンに重ねて、思わず涙がこぼれそうになる。

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