桜の咲くころ
「2軒先に、私が食器を卸したカフェがあります。良かったら寄って下さい。日替わりのシフォンケーキが美味しいんですよ。あ、それと、気に入った食器があったら戻って来て買ってってくださいね」

マグカップを入れた小さな紙袋をあたしに手渡しながら、彼女は言った。

「オーナーさん、だったんですね。ありがとうございます、また来ます」

「はい。好きで一人で始めた小さな店ですけど。また会える日を楽しみにしてますね」


沢山のハーブと一緒に、あたしを優しく見送ってくれる。

心が満たされた時間だった。

あたしは、手渡された袋を大切に握り締め歩き出す。

時間は、まだ7時にもなってない。

お腹も少し減ってきたし、オーナーが言ってたカフェで休む事に決めた。

2軒先、と言っても実際の距離は思ったよりも離れていて。

住宅地に繋がる路地やなんだで、通り過ぎてしまったんじゃないかと不安になる位。

その店は、茶色い木の壁に大きな窓が並んだ造りになっていて、小さいけれど、日の光がたっぷり差し込む構造になっていた。

入り口を抜け、窓際の半テラス席に荷物を降ろす。

外のようで外じゃない、中のようで中じゃない、サンルーフ?みたいな感じ。

分煙化も大変だねーと、軽く苦笑しながら木で作られたカントリー調のイスに座った。

店員に日替わりのシフォンケーキが付いたティセットを注文する。

灰皿があることで喫煙席なのだと確認すると、あたしはカバンから煙草を取り出して火を付けた。

・・・酔っ払って割ったら大変だよね。

・・・今日は1杯だけにしとこう。

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