桜の咲くころ
「・・・ミカコ・・・さん?」

名前を呼ばれて、視線を上に向ける。

そしてその目を、自分でも分かる位大きく見開いた。

「あ、あなた・・・」

視線の先に立っていたのは、モモカで。

あたしは、逃げる事も避ける事も出来ない状況で、ただ見つめる事しか出来なかった。

神の悪戯か、対になったマグカップの悪戯か。

長くなった煙草の灰を捨てる余裕もないくらい、驚き動きを止める。

「やっぱり!1度しかお会いしてないから、見間違えたかと思いました」

固まるあたしを尻目に、その女はニッコリ微笑んだ。

フワフワのショートヘアにクルクルの大きな目。

梅雨の明けた季節にピッタリな爽やかなグリーンのチュニックを着た女。

「ここ、座ってもいいですか?」

急な展開を受け止められずにいる私を置いて、モモカはグラスを手にずうずうしく目の前の席に座る。

何・・・?

あたしは、ただケーキを食べに寄っただけで、あんたと話をする為じゃないんだけど。

「あ、あたし煙草吸うけど・・・」

煙、嫌いじゃない?

別の席に座れば?

そんな意味を込めてやっとの思いで言ったのだけど、「気にしませんよ」との台詞で見事に切り捨てられた。
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