桜の咲くころ
ボーっと暗闇に立つ事1分。

建物の側面から飛び出るようにサトルが姿を現した。

「どっから出てきたの!?」

「あれ、お前、ここ初めてだっけ?」

「そうだよ!!苦労したんだから」

久々のサトルの顔。

ネクタイを少し緩ましてるけど、スーツ姿は乱れてない。

営業マンなんだなぁと改めて思う。

このバーの入り口は、建物の横側にあった。

もともと、倉庫として使われてた建物で、正面の入り口ではなく事務所の小さな入り口を通って入る構造になっていた。

小さな扉も木製に作り変えてあって、なかなか雰囲気があった。

中に入ると、長いカウンターと四角いテーブル席が3つ。

決して大きくないそこは、薄明かりのもと流れる音楽にピッタリなモダンな空間。

「カウンターでいいよな?」

サトルは、自分が座っていた席にあたしを導くと、「同じものを」と片手を上げてバーテンに注文した。

「よく知ってたね。ここらで飲む事あるんだ?」

背の高いイスに座り、冷えたおしぼりで手を拭く。

「ん・・・お客さんに教えてもらって」

「ふーん、いい店だね」

「それはそうと、最近、どう?」

「どうって?仕事ばかりよ?」

「そっか」

「サトルも忙しそうね」

「だな」

「売れてる?」

「んーボチボチ」

そんな他愛もない会話をしながら、運ばれてきたグラスを右手で掴み、軽くサトルのグラスとぶつける。

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