桜の咲くころ
メニューを開いたまま動かないあたしを心配して、サトルが肩を叩く。

「大丈夫?食べたいの頼んでいいよ?」

「ん、ありがと」

正直、何も喉を通る気がしないんだけど。

とりあえず、サトルに変に思われても嫌なので茄子とトマトのステーキを注文する。

運ばれてきたそれは、茄子とトマトが寄り添うように重なり合い、玉ねぎのソースが上品にかけられていた。

「・・・イタリアンだね」

「何だと思ったの?」

「和風を想像してた、あたし」

「なんだそれ、いいじゃん、旨そうだし」

そうだね、と相槌を打って箸で口に運ぶ。

トマトの酸味とソースの甘み、そして茄子が口の中でとろけて消えていく。

「お、おいしいよ、これ!!」

意外な美味しさに、あたしは思わず声を大きくしてサトルの方を向く。

そんなあたしに対して「良かった」と微笑んで、彼は甘いカクテルを一気に飲み干した。

何だか、いつもより口数が少ない。

あたしも、シンを意識して普段よりも言葉少なめだった。

「何か、雰囲気違うね?」

先に口を開いたのはサトル。

「そう?サトルこそ、疲れてる?」

「俺?いや・・・うん、なんか・・・な」

歯切れの悪い返事だ。

あたしは、甘いカクテルではなく、水の入ったグラスを手にとって口に含む。

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