桜の咲くころ
「今日ね、彼女に会ったよ」

話題を変えるべく、あたしはモモカの話をフッた。

「彼女?」

「モ・モ・カちゃん」

「あぁ・・・」

誰の事か、と不思議そうに顔を向けたが、モモカの事と分かると顔をすぐ仕事モードに切り替える。

「偶然カフェで会って。ここの店が分からなくて、教えてもらたんだ」

シンが働いてる店なら、何で最初に言ってくれなかったんだろう。

分かってたら――来る事もなかったのに。

何の嫌がらせだよ、と毒づきながらも、そんなに嫌悪感は感じていなかった。

「あいつ、何か言ってた?」

「ん?別に何も?」

「そ、じゃいいけど」

「何それ、気になるなぁー」

「かんけーないし」

ズンッ・・・胸の真ん中に、太い棘が刺さる音がした。

「い、今まで何年も会ってなかったのに・・・最近本当に良く会うね」

無理に笑顔を作って話題を変える。

カンケーナイ

その一言が胸に刺さったまま、今にもショックで震え出しそうになる体を堪えて。

「たまたま偶然が重なっただけじゃん?」

「・・・そーだよね」

迷惑・・・だよね、と言葉を飲み込む。

手元にあった水は空っぽで、あたしは思わずカクテルグラスを手に取り喉に流し込んだ。

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