桜の咲くころ
「僕は・・・この子が酔ってるから・・・心配で・・」

シドロモドロの言い訳をしつつ、彼氏が戻って来たから安心だ、なんて言いながら足早に去っていく足音が聞こえた。

あたしはというと、さっきから胸に顔をうずめたまま。

腕の隙間から、地面が少ししか見えない。

抱きしめられたままの感触が、サトルではない事をあたしに伝える。

誰でもいいです・・・・・・どうなっても・・・いいんです。

そのまま体の力が抜けていく。

膝がガクンと折れ、あたしは更に強い力で抱きしめられた。

「・・・何やってんだ、ホントに」

呆れるような低い声。

「弱いなら弱いって言え。あんな強い酒ガバガバ飲みやがって」

怒ってるような、それでいて優しい声。

「訳、ワカンネーから。金は払いすぎだし、何か押し付けて帰るし」

あぁ・・・ここはシンの腕の中なんだなぁ・・・とグルグル回る頭で思った。

「・・・爆弾じゃないよ」

「爆弾なら返すよ」

「・・・爆弾じゃないけど・・・やっぱり返して・・・大切な・・・宝物・・・なの」

「大事な物なら押し付けるな。ったく、マスターが気付かなかったら大変な事になってたぞ」

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