桜の咲くころ


「あの彼氏は?迎え呼べよ」

しばらくの沈黙の後、あたしは、まだシンの腕の中にいる。

「・・・彼氏じゃない。彼氏なんていない・・・もん」

「彼氏じゃないなら、あんな事言わねーだろ」

「違うもん・・・」

「・・・あれ、思い込みの激しい男だったら危ねーぞ」

「・・・うん、大丈夫」

グルグルからグラングランに頭の中の状況が悪化する中で、あたしはモモカの事を考えていた。

・・・いいなぁ・・・。

モモカは、この腕の中に何回抱かれたのかなぁ・・・。

いいなぁ・・・。

ゴメンね・・・今だけ・・・。

・・・ダメだ。

かわいそうだ。

この期に及んで、何でそんな事を思ったのか分からない。

きっと、冷静な自分がどこかでブレーキをかけるタイミングを狙ってたんだろう。

あたしは、慌てて両腕を突っ張ってシンの胸を押す。

体が離れて、あたしたちの間に生ぬるい風が吹き込んできた。

「ゴメン、申し訳ない」

「申し訳ない?プッ、侍か、お前は」

シンは、お腹に手を当てて笑ってる。

「違う、モ・・・」

モモカ、そう言いかけたことろで、グラリと視界が揺れた。

ヒールがふら付く足を支えきれなくなったのだ。

あ、転ぶ・・・。

観念して目を瞑った。

グイッ。

再び腕を引っ張られて視界が戻る。




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