桜の咲くころ
玄関の明かりが、うっすらリビングに差し込んで、眠気を誘った。

あぁ・・・あしたは床を拭かなきゃ・・・。

絶対ザラザラだ・・・。

「なぁ、ミカコ」

「んー?」

「電球の呪いかけたの、誰だと思う?」

「えー知らないよぉ。病院でもないよ、こんな怖い事」

「15年も探して会えなくて、会ったと思ったら誤解して逃げるし、変な男に引っかかってるし」

「えー?あたしがかけたって言いたいのー?」

目を瞑ったまま、床の冷たさとシンの声に意識を集中させる。

声・・・低くなったな・・・。

「そうだなぁー、呪いの犯人はお前だな」

「えー、探したのはあたしも同じだよ?結婚してると思ってた」

「俺も。もうこうやって話す事なんてないと思ってた」

「・・・不思議だよねぇ」

「・・・やべ、眠い。俺、帰るわ」

暗がりの中、むくっと立ち上がる気配がした。

「あ、ありがとう。ごめんね、遅くまで」

あたしもノロノロと立ち上がり、シンを見送る為玄関に向かう。

「んじゃー」

「今日は・・・本当にゴメンね、ありがとう」

申し訳なさそうな顔をすると、シンは振り返ってあたしの頭をクシャクシャ撫でた。

「もう、飲みすぎんなよ」

「はーい」

ボサボサの頭で笑い、玄関のドアを押し開ける。

そして、出ようとした時、シンの足が止まった。

「・・・・・・?」

「あ・・・」

少し焦ったような、怒ったような表情。

シンのその顔を見て、あたしは視線を外に向けた。

「・・・サトル!?」
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