桜の咲くころ
「・・・バーテン君も帰る所だろ。早く、こんな女は置いて帰った方がいいよ」

「――あんたが帰ったのを見届けたらね」

頭の上で交わされる言葉。

近いはずなのに、すごく遠く感じた。

あたしは、何か悪い事でもしたんだろうか。

殺されなきゃいけない事でもしたんだろうか。

普通に・・・暇があって・・・満たされない心を埋めてもらいたくて・・・

利用してた?

シンの――代わりとして、利用した?

あぁ・・・あたしが蒔いた種なんだ。

あたしが選んだ男がいけなかったんだ・・・。

そうか・・・あたしが・・・。

呆然と座り込むあたしの目の前に、サトルがしゃがんで顔を覗かせる。

「ミカコ?勤務先が決まったら、一緒に行こうな?また、電話する」

今までのような優しい表情で、今までみたいに優しい口調で・・・。

残酷な言葉を残して行った――。

サトルの姿がエレベーターに吸い込まれて行くのを、目の隅っこが捉える。

あたしは、涙すら流せずにいた。

カタカタと、まるで小さな生き物が身を縮めて震えるように。

あたしは、砂まみれになった膝を小さく抱いて恐怖に震えていた――。
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