桜の咲くころ
キュッ・・・

蛇口が小さく鳴くと同時に、温かいシャワーが頭の上からかけられる。

あぁ・・・高かったのにな・・・。

お湯を吸って肌に張り付いたシャツを見つめ、呆然と思った。

あれ・・・ここの電気、切れてたっけ?

あぁ・・・呪いで切れたのか。

・・・呪われてばっかだな、この部屋。

鼻で小さく笑うと、シャンプーの香りが浴室に広がった。

それは、あたしの髪に付けられたもので、見えない手がワシワシと乱暴に髪を洗っている。

「・・・シン?」

真っ白な湯気が充満したこの狭い空間で、見えない手の存在を探る。

「喋るな・・・」

冷たく響くシンの低い声。

シャツもスカートも着たままで、気持ち悪い・・・。

そう言おうとして、すぐ口をつぐむ。

仕方なく、もたつく指で濡れて外しにくくなったシャツのボタンを外していく。

電気が付かなくて良かった・・・。

乱暴な洗髪が終わり、あたしは一人真っ暗な脱衣所に放り出された。

強すぎる冷房が、体から急速に熱を奪っていく。

一人ってこんなに寒くて寂しいのかな、なんて考えたら、また体が震えた。

「・・・タオル」

浴室の扉が少し開いて、それと同時に降ってくるシンの声。

「・・・って、まだ体拭いてないのか?ったく、どれだけ世話かけんだよ」

少しイラついた口調で言うと、真っ暗な闇の中からタオルを掴んであたしに被せた。

シンが出てきた浴室から流れ出る温かい空気が気持ちよくて、その感覚に目を閉じて浸る。

「濡れたから、悪いけど俺も風呂借りた」

「うん・・・どうぞ」

どうぞ、自由に使っちゃって下さい。

そして、あたしを置いて帰ってください。

この暗い部屋に目が慣れてしまう前に。

あたしの目が、シンを捕らえる前に・・・・・・。

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