桜の咲くころ
「・・・寝てんの?」

タオルを頭から被ったまま動かないのが不思議だったんだろうか。

「・・・寝てない」

苛立った声に対して、短く答える。

瞑った目蓋の向こうで「はぁ・・・」と小さく吐き出された溜め息。

呆れてるよね。

怒ってるかな。

こんな女、送ってこなきゃ良かったって思ってるかな。

変な事に巻き込まれて、面倒だって思ってるよね。

洗濯機に体を預ける様にもたれて立つ。

顔にかかったタオルを、外そうとして、前に立つシンの気配にハッとした。

「動くなよ」

そう言って、頭のタオルをゆっくり広げ、あたしの体を抱きしめるように巻き付ける。

そして、そのまま手を引いて、また別の暗い空間に移動した。

部屋に入って足にぶつかったマットの感触から、リビングと繋がった寝室なんだと分かる。

そして、そのまま、力なくベットに押し倒された。

思考力かついて行かないからかな。

自分が今、どういう状況なのか理解できずにいた。

サトルがエレベーターに乗って、シンが部屋に残って。

あれ?

何で帰らなかったんだろう?

両腕を押し付けられた痛み。

シンの髪から流れ落ちる水の滴が、あたしの頬を伝った。
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