桜の咲くころ
生ぬるい湿気の中に身を置きながら、口元の煙草に火をつける。

ふぅぅー

ベランダの先に広がる空間に、ゆっくりと息を吐き出した。

サトルは・・・迎えに来ると言った。

あの雰囲気からだと、絶対あたしの前に訪れるだろう。

その差し出された腕を拒んだとき、どうなるんだろうと思った。

その手を拒む理由がシンであると気付いたとき、彼はどんな行動に出るんだろう。

そう考えると、想像のつかない光景に背筋が凍った。

やっぱり・・・一番いい方法はあたしがサトルの元へ行く事。

いっそ、この手すりを乗り越えて死んでしまったら・・・サトルはあたしの事を諦めてくれるだろうか。

でも――。

死ぬ事を考えて浮かんだ顔に、涙が溢れた。

シンは・・・リカは・・・外来の患者や入院してる受け持ちの患者はどうなる?

それはサトルについて行っても同じ事。

生きても死んでも・・・後に残るものは何も変わらない。

紫煙が漂い流れる空間に、あたしも飛ばされて行ければどんなに楽か・・・。

いつ訪れるかも分からないサトルに脅えるくらいなら・・・。

ベランダのコンクリートに付けられた丸い飾りパイプを握る手に、あたしは力を込めた。
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