桜の咲くころ
第3章


―――季節が変わって、秋になった。

あんなに青々と茂っていた葉が、少し勢いを落として風に揺れている。

雲が流れる青い空も、随分と高くなってしまった。

あれから、サトルからの連絡や訪問は一度もない。

やっぱり、酔っていたんじゃないかという気にさえなってくる。

それでもどこか深いところに不安が残っていて。

秋の美味しい味覚の季節だというのに、あたしは食欲が出ないままだった。


変わった事と言えば、シンが私の部屋に一緒に住むようになった事と、仕事の行き帰り
はタクシーを使うようになった事。

シンは、実家があるにも関わらずマスターの家や友達の家を転々としていたらしく、やっと安住の地を見つけたとか何とか言ってはしゃいでいた。

殺風景だった部屋の鍵も、シンの合鍵を作ったとき、立派なお揃いの大きい鈴が付けられた。

一人で部屋にいるより、シンがそばに居てくれる事は何よりも安心できた。

それでも、あたしの夜勤のない日は、夜、シンが仕事でいないので心細い。

ちゃんと無事に帰ってくるのか心配で、寝ないで待ってる事も多かった。

それでも、あたしは幸せだった。




「明日、休みなんだろー?」

朝、バタバタと準備をしていると、ベットから少しだけ顔を覗かせたシンが言った。

「そうだよー」

今日は日勤から続けて夜勤に入るから、明日は休みになっている。

疲れて夕方まで寝そうだなぁと思って、苦笑いを返した。

「買い出し、付き合えよ」

「買い出し?店の?」

「ココの」

「うち?」

意外な言葉に、手を止めてベットに目をやる。

「メシ作る特訓、してやる」

「へ・・・?」


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