桜の咲くころ

マロン

この日の外来は珍しく閑古鳥が鳴いていた。

いつも、満遍なく患者が待っているのに。

内科だけじゃなく、他の科も閑散としてるようだった。

「・・・暇じゃない?」

診察室の奥。

繋がった通路を通って前田先生があたしの所へ顔を出す。

「暇・・・ですよね」

「昼休み、早めに取っちゃえば?」

「え、まだ11時半ですよ?」

机の時計と交互に先生の顔を見る。

「待合室、きれいなお姉さんいるんだよね」

「・・・はぁ」

「ミカコちゃんの友達なんだってよ?」

「は?」

「近くまで来たから、食事でもと思って寄ったんだって」

と、してやったりのニッコリ顔。

「先生・・・何でそんなに詳しく?」

ホントにCIAかと思う情報量。

いぶかしげに見たあたしの視線を鼻で笑い飛ばして、口を開く。

「暇だったから、声かけちゃった」

この人は――。

ホント、笑いが止まらない。

あたしは、じゃ遠慮なく、と微笑んで席を立った。

真面目のマの字も感じさせない、ラフな親父に感謝して。
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