桜の咲くころ
ガチャ・・・

静かに鍵を開けて中に入る。

もうこの仕草も身体に馴染んでしまった。

寝てる相手を起こさないように。

仮眠を取ってはいるけれど、身体がダルイ。

カバンからビタミン剤を取り出して口に含むと、ソファーに座り込んで水を飲んだ。

シン――。

そう思い、後ろのベットを振り返る。

丸まって寝てるのだろうか、薄手の羽毛が寝息を立てるように小さく上下に動いている。

『拷問よね・・・』

昨日のリカの独り言。

「そうだよね・・・」

と、口に出して頷いてみる。

ゆっくりと立ち上がってベットの縁に歩み寄ると、シンの長い前髪を指にとかして見つめた。

シンは・・・どう思ってるのかな。

「何、そんなに優しく髪触って・・・発情すんなよ」

目を瞑ったまま、意地悪く口元を緩ませるシン。

慌てて手を引っ込めたけど、あまりの驚きに心臓がすごい速さで鳴っていた。

「お、起きてたの!?」

「今、起きたの」

「べっ別に発情とかしてないから」

「そ、残念」

目を閉じたまま出てくる何気ない一言に、あたしは胸が締め付けられる思いだった。

我慢・・・してるのかな・・・・・・。

そりゃそうよ、と想像のリカが口を挟む。

そうだよね・・・。

でも、あたしだって同じなんだよ。

これは、シンを守るための・・・あたし達を守る為の残酷な誓い。

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