今夜、俺のトナリで眠りなよ
「どういうこと? まさかと思うけど、本当に……」

「勘違いすんな。兄貴が愛人宅でのんびりしている間に、桜子さんが大変な目に遭っていたんだよ。だから俺が迎えに行って、ついさっき家に帰って来たんだ。車の中で寝ちまったから、部屋まで運んだんだ」

「桜子は、実家に帰っていたはずじゃ……」

「その実家で嫌な思いをして、飛び出したんだ。終電がとっくに出ちまった夜中にな。歩いて家に帰ろうとしていたのを、俺が迎えに行ったんだ。兄貴の携帯に電話しても、電源が切ってあって連絡がつかねえって。向こうのお母さんがおろおろしながら電話してきたんだよ」

「それで桜子は」

「寝てるっつったろ」

 俺は、兄貴に背を向けると階段に足をかける。

「一樹、本当に何もなかったのか?」

「何かあって欲しいのかよ。悪いけど、俺……兄貴より桜子を愛してる自信はある。でも兄貴みたいに、桜子を苦しめたりしない」

 俺は階段をのぼる。

 俺は兄貴とは違う。桜子を不幸になんてしない。絶対に。

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