今夜、俺のトナリで眠りなよ
 二階にいく足音が聞こえ、すぐに一階に下りてくると家を出て行ってしまった。

 駐車場から車が出て行くのが聞こえたから、愛人の家に向かったのだろう。

 もう、隠す気はないみたいね。

「また暴走したね」

 テレビを見ながら、一樹君が呟いた。

「ごめんね。これしか…思いつかなくて」

「俺に謝る必要ないよ。桜子さんが決めたことなんだから。でも……兄貴は別れないよ。桜子さんを失うのは、兄貴には考えられない」

「好きでもないのに?」

「桜子さんのお父さんの会社が欲しいからね、兄貴は」

「そっか」

「そ。だから、俺を愛人にすればいい」

「駄目よ。私は一樹君を愛人にしたくない。堂々と胸張って言える恋人にしたいの」

 一樹君が顔をあげると、にこっと笑った。
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