今夜、俺のトナリで眠りなよ
 高そうな毛皮のコートを着ているお義母さんが、ツンと鼻先を上にむけたまま、ソファに腰をおろした。

「優樹さんから聞いたわ。貴方、離婚したいとかって言ったそうね」

「はい」

「優樹さんほどの人と結婚しておいて、離婚したいってどういう料簡をしているのかしら? 愛人のほうに気持ちがいってて、愛されていないとでも思っているの? そもそも愛されようとでも思っていたわけ?」

 はあ、とお義母さんがため息をついた。

 私は下を向くとぎゅっと拳をにぎった。

 優樹さん、お義母さんに離婚の話をしたんだ。お義母さんにあれこれ言われる前に、きちんと優樹さんと話がしたいのに。

「離婚について、優樹さんときちんと話をして……」

「離婚なんて有り得ないわ。諦めなさい。愛人ごときで、騒がないで頂戴」

「いえ。あの…」

「兄貴、あんたに泣きついたのか」

 一樹君が、居間のドアに寄りかかって口を開いた。
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