今夜、俺のトナリで眠りなよ
 私は、ソファから立ち上がった一樹君に抱きしめられた。

 温かいぬくもりが、私を包み込んでくれる。

 遺言状の言葉を無くしてまでも、私を選んでくれたのはすごく嬉しいけれど。

「あと、兄貴から手紙を預かってきた。家と通帳の金は全て桜子さんのモノにしていいって」

「それも一樹君が……」

「俺じゃない。兄貴が勝手にやった。会社が残るんだ。それくらいのことはしても良いだろ」

 一樹君が、私から離れると居間を出て行った。

 優樹さんが勝手にやったなんて言ったけど。本当は違うんでしょ?

 私を想って、一樹君が優樹さんに言ってくれたんじゃない?

 ズルイよ、一樹君。

 年下とは思えなくらい、しっかりしてて……私なんかよりずっともっと大人じゃない。

 格好良くて、ズルい。













 私は区役所に離婚届を出した。

 外に出ると清々しい青空が広がっている。私は背伸びをすると、大きく美味しい空気を吸った。

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