今夜、俺のトナリで眠りなよ
「優樹さん、結婚前から付き合ってる人がいたのね。それで全然、自宅に帰らないで……。桜子をずっと一人にしていたって」

 私は下を向いて、「うん」と頷いた。

「それでわかったの。桜子が、愛されていないって言ってた意味が。努力が足りないって言ってしまって、ごめんなさいね」

 私は首を横に振った。

「桜子なりに努力してたのに。もっと頑張れって言っちゃって、悪いことしたって思っているの」

「もう平気。次は私を愛してくれる人と一緒になるから」

「そうね。一樹君なら、桜子を大切にしてくれるわね」

「はい?」

 私はお母さんの顔を見る。

 お母さんがくすっと笑うと、前方を指でさした。

 コートの襟をたてて、寒そうにしている一樹君がベンチに座っているのが見えた。

< 131 / 135 >

この作品をシェア

pagetop