今夜、俺のトナリで眠りなよ
「桜子さん、和食をもっと勉強なさい。今夜の料理では、優樹さんが病気になってしまうわ」

 毛皮のコートを着ながら、お義母さんが口を開いた。

「俺が食いたいって言ったんだよ。今日の料理」

「一樹、貴方は黙ってなさい」

「嫌だね。あんたは主婦のなんたるかも知らねえくせに口出しすぐなんだよ」

「一樹!」

「親父がなんで、あんたのいる家に帰らなかったかわかるか? 家庭の匂いがしないからだ」

「一樹、母親になんて口をきくの」

「養母ってだけだろ。俺の本当の母は、あんたじゃねえ」

「親に恥をかかせるなんて、なんて子なの」

 一樹君がクスッと笑うと、雑誌をソファに投げて立ち上がった。

「俺を子どもだと思ったことがねえくせに。よく言うぜ」

「一樹っ」

「さっさと帰れよ。あんたがいると片付けも出来ねえ」

 お義母さんが、一樹君を睨みつけると、居間を颯爽と出て行った。
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