今夜、俺のトナリで眠りなよ
「桜子さんのお父さん、お母さん。すみません。家の醜態を見せてしまって」

 一樹君がペコっと頭をさげた。

「桜子、向こうのお義母さんの言うとおりだぞ。和食をもっと勉強しなさい」

 お父さんが、じろっと私を見た。

「いえ、桜子さんの和食は最高に美味しいですよ。兄のために、毎週、料理教室に通って勉強しているんです。兄貴が羨ましいですよ。こんなに出来たお嫁さんをもらえたなんて」

「一樹君にそう言ってもらえて、良かったよ」

 お父さんがにっこりと笑うと、お母さんと一緒に居間を出ていった。

 みんなが帰ると、家の中が急に静かになった気がした。

 どっと疲れが身体の中から湧き出してくる。

 私はソファにストンと座ると、「はああ」と長いため息をついた。

「お疲れさん」と、一樹君が苦笑した。

「優樹さん、帰って来なかったね」

「帰ってくるわけねえじゃん。あんたが、ボロクソに虐められるってわかってて、自ら修羅場に身を置くようなヤツじゃねえよ」

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