【短編】こんなものいらない
俯きながら歩くと、パンプスを履いたあたしの足が、左右交互に前に出てくるのが見える。
その規則的な行動に目をやりながらボーっとしていると、由美が声をあげた。
「…仁、言ってもいい?」
「あー…、もうしょうがないか。あいつにも非があるわけだし」
「え…?」
何かあるの?
慶太はあたしに何か内緒にしていたの?
「な、何…?言って!」
縋るように由美の腕を両手で抱きしめた。
あたしより5センチほど背の高い由美は、落ち着くように言って、それからあたしの頭を撫でた。
「慶太も思いっきり空回りじゃんね?仁」
「だな」
早く早くと急かしているのに、2人は見つめあってふふふと笑っている。
あたしはその間も由美の腕にしがみつく力は弱めなかった。
「あのね里奈。バイト、本当だよ」
「え?」
「慶太、本当に深夜バイト入れてる」
「な、なんで…」
確かにお金が沢山あったわけじゃない。
けれどあたしのバイト分と合わせれば家賃や生活費も、不自由しない程度にはあった。
なのにどうして?