【短編】こんなものいらない
台所の方で、やかんのお湯が沸いた音がした。
あたしはそれを聞いて、ソファから立ち上がる。
台所でお湯をカップに注ぐ。
ブラックが飲めないあたしは、冷蔵庫から牛乳を取り出し、それもカップに注いだ。
コーヒーをスプーンでかき混ぜながら、ソファに座り直す。
"――それじゃあ今日も元気に行ってらっしゃい!"
テレビのキャスターが、画面の向こう側のあたし達視聴者に笑顔を送る。
以前は、2人で見ていたテレビ。
いつからだろう、こんな風にすれ違うようになったのは。
いつから、慶太は冷たくなってしまったんだろう。
いや、別に何年も前からって訳じゃない。
ほんの数ヶ月前からの事だ。
それなのに、もうずっと心が離れているような気がした。
夜遅くまでバイトを入れているらしいけれど、そんなの信じて良いのかわからなくて。
朝方帰ってきて、あたしと入れ違いでベッドに潜る。
慶太の中に、もうあたしはいないんだろうか。