【短編】こんなものいらない
そっと寝室のドアを開けて、タンスの前まで行く。
音を立てないように。
慶太を起こしてしまうかもしれないし。
あるいは慶太は起きていて、何も言わないだけなのかもしれないけれど。
ふと慶太を見ると、あたしに背を向けて深く布団をかぶっていた。
あたしは適当に服を出して、いそいそと着替える。
今年大学4年のあたしたちは、もうあまり大学に行かなくてもいい。
卒業できるだけのの授業は受けて、単位も取得しているから。
それは慶太も同じで、だからこんな悠長に寝ている。
けれどあたしは今日は用事があって大学に行くことになっていた。
あたしが今日大学に行くことを慶太が知っているかはわからないけど。
着替え終えると、あたしは慶太の眠るベッドまで行って、
「大学行ってくるね」
それだけ言って部屋を出た。