今までの自分にサヨナラを


だけど、一つだけ心に引っ掛かるものがあるのだ。


それはさっきから、車道側を歩きながら黙りこくっている彼がいるから。


あの彼が何も喋らないなんて、変で私の方が落ち着かなくなる。


「あの……」


「あっ、ご、ごめん」


私が痺れを切らして声をかければ、彼の一定の足音のリズムが一気に乱れて止まった。


「えっと……、なんかさゆ、今日雰囲気違うから、つい……」


立ち止まった彼は、珍しく私とは目を合わそうとしなくて歯切れが悪い。


前髪で陰った顔は、何だかぎこちなくて、心なしか赤く見えるのは気のせいだろうか。



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