今までの自分にサヨナラを


私はそんな陽だまりにただ見惚れていた。


すると、そっと微かな重みが肩にかかる。


肩から伝わる温もりとふわりと香る優しい香り。


はっと我に返れば、肩にはいつの間にか彼が着ていた黒のブルゾンがあった……。


私の頭は急に真っ白になってしまって、なんだかよく分かんない――。


「こ、これ……」


上手く言葉が紡げないでいると、立ち上がった薄着の彼はジーンズのポケットに手を突っ込んでにっこりと振り返る。


「まだ少し寒いからさ。そろそろ行こっか」


上着の温もりより、不思議なくらい胸があつい。


見上げれば、春のそよ風に蕾が小さく揺れていた。



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